FC2ブログ

セルフコントロール研究所 ~ ともぞうブログ

--/--/--(--) --:--:--

[スポンサー広告] スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2010/09/05(日) 17:20:50

[自己啓発書] 単純な脳、複雑な「私」

 勝間和代の『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』を、小飼弾は「浪費しない、投資を惜しまない」と要約した。
 断言しよう。私は社会人になってからの10年間というもの、「投資しない、浪費を惜しまない」生活を送ってきた。
 私は、勝間和代のほぼすべての著作、『夢を叶えるゾウ』、スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』、フィリップ・マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、『金持ち父さん貧乏父さん』、その他数々の自己啓発書を読んできた。
 しかし、それを自分の人生において実践したことなど一度もない。
 はっきり言っておく。おまえらは、他人が書いた、世間で流行っている本を読まなければ、自分の人生さえ送れないのかと。
 私は自分で自分の人生を送る。
 自己啓発書を読むのは、それが戯れ言として面白いからである。私は面白がるために本を読んでいるのであって、実用に役立てようなどという低俗な発想は私にはない。
 したがって、今現在も私は、酒を飲みながらPCに向かい、ブラウザを立ち上げ、検索窓に「dmm」と入力している。
 私は勝間和代と違い、何でもかんでも効率効率と貧乏くさく時間を使うのは大嫌いなので、ブックマークをしてツールバーにリンクを表示させたりするようなことはしない。検索窓に「dmm」と入力する程度の手間は惜しまないのである。もし仮に、私の部屋に女性が来なくなってかなりの歳月が過ぎており、私の PCを女性が使うことなどなくなっていたとしても、この習慣を変えることはない。
 やがて気持ちが高まってきたので、私は椅子から立ち上がり、ティッシュペーパーを取りに部屋の中を移動した。そして少しだけ気持ちを落ち着け、再度モニターの中に神経を集中した。ますます気持ちが高まってくる。その時。
《くぉるぁ!》
 ドスのきいた声で一喝された。
 もちろん、他人のいるところで日本の誇るdmmの優秀なコンテンツを鑑賞しながら気持ちを高める趣味は私にはないので、この部屋には私しかいない。
《オナニーばっかりしやがって。たまには読んだ本に書いてあること実行せえ、バカ》
 どこから声が聞こえてくるのだろう。いや、声じゃないような気がする。ものすごくリアルに、過去の経験を思い出しているときのような。脳に直接、「人がしゃべっている」という情報がインプットされてるような。夢の中で音を聞いているときのような。
《ほんっまに、人間のくせに。本読めるくせに。欲に動かされてるだけやんけ。情けないのう》
 正確に言えば、この部屋には、私の他に、小次郎という名前の犬がいる。昔別れた女が置いていった、ミニチュアダックスフントだ。マンションの室内で飼っているが、吠えたりすることはなく、他の部屋の住民に迷惑はかけていない。散歩に連れて行くと、犬好きはみんなこの犬のことをじっと見る。「かわいい」と言われる確率も相当高い。おとなしくてかわいらしい風を装っているが、実は気にくわないことがあると部屋中に小便を撒き散らして飼い主に抗議する。私がそれを最も嫌がるのを知っているのだ。実に恐ろしく、性格の悪い犬である。
 私は小次郎を見た。小次郎はいつもの上目遣いで私を見ている。
 声が聞こえる。
《人間のくせに、食って寝てオナニーしてるだけか、お前は。犬のオレでさえ、去勢され、食事を制限されることに耐え、身体を鍛え、日々思索にふけっているというのに》
「――お前か?」
 私は問うた。犬の小次郎に。
 小次郎は、私に話しかけれらた時にいつもそうするように、定位置のソファから飛び降り、私の足元にやってきて、私を上目遣いで見ながら、しっぽを振った。
「腹減ったんか?」
 小次郎はますますしっぽを強く振る。
 私の高まった気持ちは、すっかり萎えてしまった。小次郎専用の皿を洗い、ドッグフードを入れる。いつもの場所に皿を置き、「待て」と言ってしばらく動きを止めさせてから「よし」と言って食べるのを許可する。
 小次郎はガツガツと音を立てながらドッグフードを食う。一気に食い終わると、今度は水を、ピチャピチャと盛大に音を立てながら飲む。飲み終わると定位置のソファに飛び乗り、長い胴体をくるりと巻く用にして、ソファの縁に自分の顔を乗せ、目をゆっくりと閉じる。「食った食った。満腹だ」という心の声が聞こえてきそうである。
 小次郎が食事をしている間、先ほど聞こえた、頭の中に直接響いてくるような「声」は聞こえなくなっていた。
 小次郎なのか?
 いつも、こちらの考えを見透かしているかのような表情をする犬ではあった。話しかけたことの意味がわかっているようでもあった。いつかしゃべり始めるのではないかと、半分本気で考えたこともある。
 しかし、なぜオレを罵倒する。
 しかも、偉そうなことを言っておきながら、自分はメシを食って眠れさえすればそれでよいのだろうか。
 ふざけた犬だ。
「おい」
 ソファに寝そべったまま、顔を上がることすらもせず、目だけを半分開けて私の方を見る。
「小次郎!」
 あくびをしやがった。
「お前、明日はオヤツ抜きだ」
 小次郎は起き上がり、ソファから飛び降りた。床に座り込んで、私を見上げた。抗議のポーズだ。
「お前、飼い主に対して、なんであんなこと言うんだ。しかもあんなタイミングで」
《うるさいオッサンやなあ》
 声が、聞こえた。
 小次郎は、相変わらず上目遣いで私を見ている。
《実際その通りやろうが。人間のくせに、欲を何一つコントロールできん。飼われてるワシが情けないわ》
 なんと言うことだ。小次郎がしゃべってる!
《わしゃ、お前さんに飼われとる犬や。自分では、食欲や性欲はコントロールできん。しかし、コントロールした方が良いのはわかっとる。散歩の時に見かける、まともに歩けないほど太ってしまった他の犬のことを考えれば、お前さんがワシの食事をコントロールしてくれてるおかげで、毎度の食事が、例え栄養のことだけしか考えられてない安物のペットフードであろうとも、美味しく感じられる。健康で、ボールを追っかけて走り、身体を動かす楽しみを味わうことができておる。いい加減、もっと良い音が鳴って噛み応えのある新しいボールが欲しいがな》
 小次郎は「しゃべって」いる間、ずっと私の方を見たまま、動かなかった。
《食べるとか、寝るとか、そんな欲求でさえ、コントロールした方が、より食べることや寝ることそのものを楽しむことができる。ましてや人間が、生存とは直接結びついていない欲求をコントロールできず、結果的に不幸になったり、身体を壊したりしているのを見ると、本当にアホじゃないかと思うな》
 しかし、しゃべっている内容は、とても犬のものとは思えない。まして、犬好きが必ず振り返るほど一見かわいらしいミニチュアダックスがしゃべっているとは。
《動物は本能で動いていると思っている人間が多いらしいが、そんなことはない。ちゃんと学習した結果身につけたものによって動いている。まあ、「パブロフの犬」みたいな単純な反射が多いがな。しかし人間だって、似たようなもんだ。お前さんがこの前読んでた『単純な脳、複雑な「私」』に書いてあっただろう。人間の行動が起きる過程の話だ》
 小次郎が言わんとすることはわかった。脳科学者池谷裕二の本には、こう書いてあった。
 人間が行動を起こす場合、まず脳が行動の準備を始める。そして準備が整って、行動を起こすことができるようになってから、「行動を起こそう」という意思、意識が生まれる。これは実験で確かめられている。順番として、「行動を起こそう」という意思が最初ではないのだ。
「行動を起こそう」というのは、自由な意思ではない。脳が先に準備をしてから作っている意識だ。
 自由意思などない。
 ただし、ここから池谷裕二は、重要な、我々にも受け入れやすい事実を教えてくれる。
「行動を起こそう」という意識が生まれたあと、実際に人間が行動を起こすまでには、時間があるのだ。この時間を池谷裕二は「執行猶予」と呼んでいる。この時間に、我々は、その行動を起こさないことができる
 つまり我々は、自由意思で行動の準備を始めるわけではないが、行動の準備ができた後に、その行動を起こさない権利を持っている。
 自由意思はないが、拒否権はあるのだ。
《拒否権を使わないのなら、意識なんかなくて良いのだ。人間のくせに。もっと考えろ》
 小次郎は言った。
《そして、オヤツをくれ》
スポンサーサイト
トラックバック:0 - http://tomorozo.blog10.fc2.com/tb.php/140-a7162188

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。